冬 駅にて

2019年01月29日

一人 たった一人

冬身を切るような冷気が街に冬のしつらえを終えた朝。
私はマントの大きなボタンを丁寧にかけ、黒いブーツのかかとを鳴らし、玄関を出た。


早朝、駅までの道、人影は少なく、薄暗い。


空には、光の衣の中で眠りに落ちる寸前の星々があった。北を眺めると、すでに北極星は見えず。


先程、目覚めてすぐに見上げた空では、まだ棺の星アルカイドが、北の重心――恐るべきポーラースター、アルギエティを追っていた。


アルカイドはひしゃくの柄の端にある、棺を引く娘達の星。棺には娘たちの父親が眠っている。娘達は父親を殺したアルギエティを追い、半永久的に北の夜空を周り続けているという。


追うアルカイドと追われるアルギエティ。どちらが哀れなのかは分からない。私は誰かを追ったことも追われたこともないからだ。悪い意味においても、いい意味においても。


遠いアラビアの星物語は、間もなく陽の目の中で薄らぎ、かき消された。


少しばかり強い風が吹き抜ける。スコートのひだが膨らみ、やがてするりと元の場所へ戻った。寒さが下から上まで身体を包んだ。


冬 駅にて
駅のホームに立ち、列車を待つ。
大きな革のバッグの中では、書きかけの言葉が散乱していた。自室において、これらの言葉をひとつの空につなぎ終えることは、諦めた。


言葉は、今、散り散りばらばらに彷徨って、黒い空の中、上へ上へと星を追い、同時に、突き崩されるように、下へ下へと追われていた。


一人の紳士が、近づいてくる。
ポーラーハットのつば越しに、友人には近すぎ、恋人には遠すぎる彼を見上げた。


奇遇ですね、ご旅行ですか? 大きな荷物だ、と、紳士は私のバッグを見た。


ええ、少し、知らない街の風景を見たくなって......そう言いながら私の心は、既に目の前の紳士からは遠く離れていた。


冷たく甘く苦い風が、黒いマントの間を吹き抜ける。
私は、今、旅に出かける。


独りで立っている。


言葉が空に放たれ、もつれて、千切れて、つながり、もつれ。
言葉は手さぐりに私を追い、私もまた、その行く末を果てしなく追いかけようとしていた。