ダサク

2019年01月29日

いきてなくちゃいけませんか

『ダサク』

「魔界に転生したら薄焼き卵だった」

そんな一文を書いてから、サトはスマホの電源を切った。力いっぱいぶん投げたら机に当たり、ケースがぐちゃぐちゃに割れた。

そうだ。別に、卵じゃなくても良い。こんなあほな妄想に卵など、贅沢だ。

いっそメタンガスが良いだろう。

主人公はタンクの中で圧縮されたメタンガスだった。

サトが書くつもりもない馬鹿話の中で、人間界から魔界へ転生したメタンガスは、何かに引火して大爆発するのだ。

 書くつもりがないので、こんなことを考えるのも阿呆らしいが、一体何に引火したら、よりクソな話になるだろうか。

 ああ。同じくメタンガスについた火に引火すればどうだろうか。同類相哀れむ、という言葉を思い付いたが、全く意味がつながらない。しかし......火元は何がいいだろう?

 魔界では今、放屁に火をつける芸が流行っているとかはどうだろうか......。それに引火して――? いや、この展開はどうもいまいちだ。盛り上がりなど一切必要ないからだ。

魔界で、ああ、いや、もう別に魔界でなくてもいい。

いや、魔界なんかあるか馬鹿。

とにかくどっかそこらへんで、理由なく主人公はメタンガスに転生する。

そしてなんだかよく分からない町の、一番不潔な店の、一番不潔な便所に、タンクが何故か設置される。

理由などない。

首謀者はいる。

時は満ち、ニコチンとゲロ臭い料理用酒とリストカット依存症の信じられないくらいに醜く太った中年男が大便器に座った。

それを見計らって、魔法少女が現れた。彼女はどっかから転生してきたメタンガスの充満したタンクの栓を開ける。

余談だが、魔法少女というのは彼女が勝手に名乗っている名前だった。

町の者は皆、彼女を「百円ライター」と呼んでいる。彼女は今年三七歳だそうだ。

百円ライターの目論見通り、肥満男は大便の直前に盛大な不快音を響かせ放屁をかました。

その一瞬、百円ライターは町一番の不潔な便所の個室を蹴り破り、どっかからか転生してきたメタンガスの充満したタンクと共に、個室に押し入った。

その日、百円ライターはガススタの店長と服を着たまま生でやりまくったばかりで、割合と簡単にガソリンを大量に入手していた。彼女は全身にそれを被っていた。ドレスアップのつもりだ。

その時、肥満男は、今日五十五本目のシケモクに火をつけた。店の床で拾ったシケモクに。

そんな訳で、人間が二人焼け死んだ。店はつぶれた。幸いなことには、町一番の不潔な便所も今はもうなくなったのだった。

メタンガスはまあまあ燃え広がり、当たり前だが消えた。めでたしめでたし。

さあ、とサトは言った。

とっととこのマンションから飛び降りよう。

その県一番の繁華街で、某支店長補佐のタカが呑んでいる。

タカの口癖は、「俺って誰とでもすぐ友達になっちゃうんだよねー」だ。

二次会はクラブに行く。

タカの気に入っている店だ。

今日支店に来た偉いさんへの社内接待のように見えて、払いはいつも偉いさん持ちだ。もう一人同席していた後輩のヤスが、今ちょうどエレベーターで酷く無様に転び、店の女の子たちにボックスまで連れてきてもらっていた。

ヤスは呂律がおかしくなり態度が変態じみてきたくせに、勝手にボトルをおろした。一瞬、偉いさんは「はあ?」と顔をしかめた。

タカはまずいと思ったのか、ヤスを少し強めに諫める。泥酔したヤスのワイシャツは、腹の肉ではち切れそうだった。

結局、ボトルが来た。そういうものなのだ。酒よりウーロン茶が値が張り、氷で財布が薄くなり、キャストの女の子は二人ほど飲み過ぎている。

タカはしきりと、自分の「友達」の話ばかりした。

ヤスは何を言っているのかもう判断できない。

目で人を殺せそうなお偉いさんは二時間で五万払った。ほとんどタカとヤスが呑んでいる。

三人連れ立って、タクシーを拾おうとしたが、タイミングが悪いのか空車がなかなか見つからない。

部長、ちょっと待ちます?

え、待ちます?多分すぐ来ますよ~。

あ、そんじゃ少し歩いて酔い覚ましましょうか。

あ、そうだ俺、あそこの店の子も友達で。

ほんと、すーぐ知り合い増えて付き合いで金かかるんすよね。

明日もバーベキュー行くし。

「ボエボエヘラヘラゲロゲロゲロゲロ」

一次会で食べた高級料理を芸術的に噴射するヤスを、偉いさんとタカは半ば無視している。一応、吐き終るまではその場から少し離れて待っていてやった。

三人で歩き、繁華街をだいぶ離れた。

ああ、あのタク、空車ですよ、とタカが言った。

その時、上の方から声がした。

ねえねえ~!

若い女の声だ。

三人は思わず上を見上げた。マンションの四階に女がいた。

次の瞬間、タカの顔面に電子レンジが直撃した。ヤスは一言も声を出さず突っ立っていた。そのヤスの頭にテレビが降ってきた。

ヤスはその時、放屁・放尿・脱糞していた。

そして、アスファルトの上に若い女が落ちてきた。

偉いさんは警察と救急車を呼んだ。

マンションから降ってきた女は即死した。

タカは顔面が割れ、数か月間、麻痺した。

それ以来、タカは、すぐに友達が出来る自慢をしなくなった。

ヤスは一年後、とても普通に転勤した。

色々な臭いでその現場は信じられないほど臭かった、と偉いさんは未だに誰にも言っていない。